2018.09.07
環境と飼料にこだわり
オーガニック卵を生産
農業生産法人 黒富士農場専務取締役、向山一輝さん
幸せな環境を整えたら
鶏も卵も健康に
山梨県甲斐市で自然循環農法を取り入れ、平飼いで育てた鶏の卵を生産しています。1950年に塩山市で採卵養鶏をはじめ、私と兄の代で3代目。父親の代の時は、省スペースで大量生産ができるということで、ケージで養鶏するのがブームになっていたのですが、方向性に疑問をもち、1991年に平飼放牧をスタートしました。見学に来た小学生の女の子が「ケージの鶏がかわいそう」と泣いたことにショックを受けた事がきっかけです。
日本人の卵の消費量は年間平均331個(2016年)で世界でもトップ3に入るほどです。現在も、日本で平飼いをしているのは全体の5%以下、ほぼケージで大量生産されています。
本当に美味しい卵は、心身ともに健康で元気な鶏から産まれます。鶏たちにとって幸せな環境を作ることを追求し、様々な取り組みを行っています。鶏の飼料や暮らす場所など全てにおいて厳しい基準があり、採卵鶏での取得が非常に難しい、有機JAS認証を取得しています。この環境や様々なこだわりから生まれるのが、日本初のオーガニック卵です。
有機JAS認証を取得している黒富士農場で生産されるオーガニック卵。
自然豊かな環境にある農場。鶏舎は18棟ある。
飼料から農法まで
鶏にも人にもやさしい取り組み
農場は甲斐市の標高1100mの山の懐に位置し、自然豊かな環境にあります。ここからは富士山が見えないのですが、そのおかげで民家もなく、環境が保たれています。農場の上流からはミネラルやカルシウムが豊富な天然湧水が流れ、この美しい水が卵の美味しさにつながっています。というのも、卵の卵白の89パーセントは水分だからです。鶏たちは平飼い放牧で飼育しています。放牧場で自由にのびのびと牧草を食べたり、走り回って過ごします。
飼料は、大豆やとうもろこしは遺伝子組み換えしていないものを世界中で探し、ラオスの地方都市とのフェアトレードにより大豆を、米国の農場との飼料提携によってトウモロコシを仕入れています。どちらも有機JAS認定の作物です。また、おからと米ぬかを主原料に、海藻粉末やアオサなどを加えた発酵飼料や山梨大学と共同研究しているクロレラも与えています。鶏の腸内環境が整い、健康を維持でき、濃厚で臭みのない卵を産みます。
また、自然循環農法の一環として、岩石と腐葉土と水の力による自然浄化を基礎とするBMW農法を取り入れています。この農法で作った活性堆肥を鶏舎内の床下に敷き込んでいます。土着の微生物の力のおかげで臭いやハエなどの発生を防いでいます。平成3年から三井農林と業務提携し、鶏糞と三井農林の紅茶の製造工程で排出される茶殻を使って、茶ポリフェノールが含有された特殊肥料を開発しています。肥料としてはもちろん、こちらの農場では鶏舎内にも使い、病気の発生や臭いを防いでいます。
そして、毎日5~6万個の卵が生産されますが、GPセンターに集めて、洗卵し、傷や汚れなどがないか機械と人の目でチェックしています。
農場敷地内には美しい小川が流れている。
のびのびと自由に走り回る鶏たち。
サラサラとした感触の茶殻を利用した特殊肥料。
クロレラの飼料化を山梨大学と研究している。
鶏の健康を維持するため、自社で製造している発酵飼料。
鶏舎で餌を食べると、外でのびのびと過ごす。
オーガニックや動物福祉を
広めていきたい
最近になって、オーガニックの農産物を販売する店や情報が増えるなど、ようやく浸透してきたと感じています。自然農法を続けてきたことで、多くの仲間ができたり、選んで買ってくれるお客様が増えているのは嬉しいことです。価格は一般的な卵に比べかなり割高ですが、オーガニックや動物福祉という観点も加えながら、本当に安心安全な卵を選んでほしいと思います。好みがあると思いますが、夏は鶏が水をいっぱい飲み、餌を食べなくなるので卵が水っぽくなり、冬は餌をいっぱい食べるので濃厚になります。卵かけご飯やオムレツで、卵を味わってほしいですね。卵のほかにも卵を贅沢に使ったケーキや鶏肉の加工品も製造、販売しています。
今後は鶏の数を増やすことは考えず、動物福祉や自然循環農法をより一層大切にし、地域に恩返しをしたいです。そして、オーガニックや動物福祉の考えを広める活動を続けたいです。
農業生産法人 黒富士農場
山梨県甲斐市上芦沢1316