2020.02.10
手塩にかけた完熟ブルーベリー
さわやかな風が吹き渡る、甲南町野川の丘陵地。
鈴なりのブルーベリーが、朝露をみずみずしくはじく。
棚田を開墾して始まった「宮ベリー」は、平成20年に観光農園となり、口コミで人気を呼んだ。
いまでは、特産品に乏しかった甲南町の活力となっている。
49歳から専業農家に転身丘陵地に見出した可能性
「これなんかは、食べ頃ですよ」。増田則治さんが、大粒のブルーベリーを手に乗せてくれた。以前に
スーパーで購入したものとは異なり、やや弾力がある。口に放り込むと、わずかな酸味の後に、さ
わやかな甘さ。思わず、増田さんの顔を見る。「甘いでしょう。昼と夜の寒暖差が、おいしいブルーベ
リーを育ててくれるんです」。これが、1時間1000円で食べ放題。卑しく銭勘定をしかけたが、
明らかに得だと気づいてやめた。もとは、自動車整備工をしていた増田さん。大手ディーラーや民
間工場で働いたのち、農業に専念しようと49歳で退職した。父の代から兼業農家だったが、増田さん
も土を触るのが好きで、ウコンやヤーコンを育てた。「よそで作っていないものを育てるのが好きで、
あれこれ手を出しては試行錯誤していました」と振り返る。
ところが、古琵琶湖層がむき出しになった一帯の土質は、稲作には適していても、他の農産物には
向いていなかった。ズニン(またはズリン)と呼ばれる青みがかった土は、豊富なミネラルを含んでい
るものの、農作業では足に重く絡みついた。
ある日、農業新聞の記事に目を奪われた。ブルーベリーを育てるバッグカルチャーシステム。土の
入ったバッグを活用するため、土耕が難しい農場でも栽培できる。さらに、地域ではめずらしいブ
ルーベリーなら、農業後発者でも収益が見出せるかもしれない。
メーカーから話を聞くと、全容がつかめた。ブルーベリーは収益性が高く、バッグカルチャーシス
テムなら、気候が合えばどこでも栽培できる。そして、高額な初期投資が必要になる。
悩んだ末、地元の農業仲間に話を持ち掛けた。しかし、費用の話になると、多くの人が首を横に振
る。そんな中、年齢の異なる10人でも覚えています」
初年度に植えた苗は、約30センチのものを500株。収穫できるようになるまで、まだまだ時間が
掛かる。長い戦いの始まりだった。
口コミで一大観光農園へ六次産業化にも挑戦
バッグカルチャーシステムは、水に液肥を混ぜて、パイプで自動送水する。水やりの苦労はないが、
気をつけなければならないのは病気と害虫。枝枯病や灰色かび病のほか、とくに怖いのは、気づか
ないうちに根を食うコガネムシと、幹に巣食うカミキリムシの幼虫だ。わずかな異変を見逃すと、
株ごと枯れてしまう。栽培開始の翌年には、250株を追加で植栽した。害虫が原因で20
株を枯らしたが、2年間は幹を育てるために実を落とした。収益のないまま迎えた3年目、初めてターチェンジが完成し、追い風となる。6~9月まで休みなくブルーベリー狩りを開催し、事業は軌道に乗った。
栽培したブルーベリーを使った商品も考案した。高い糖度を生かした自家製のジャムは、平成20年に500個を完売。道の駅やJAなどに販路を広げ、年間1400個を販売するまでになった。
増田さんが成田ふれあい牧場(甲南町新治)に商品化を持ち掛けたというジェラートも人気を博している。
現在、「宮ベリー」に訪れる客のうち、半数をリピーターが占める。
熟成時期が異なる17品種を植えてあるため、客はいつ訪れてもさまざまな品種を味わえる。さらに、持ち帰りできるカップが大きいと評判だ。未就学児が無料とあって、週末は多くのファミリーでにぎわう。
シーズン終了後、木が眠りにつく冬は、翌年に向けた剪定を施す。
一株あたり、約30分。それが700株以上ある。「本当はもう少し園を広げたいのですが、なかなか
追いつかなくて」と増田さん。かつてレンチを握っていた厚い手のひらで、やさしく枝をなでた。
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食材名
宮ベリー
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品 種
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品 目
果物,果物(加工品),果物その他
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出荷時期
6月~9月
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主な産地
甲賀市甲南町
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配送温度帯
常温